「60代に使いやすいキッチン」、本当に必要なものがわかっていますか
60代を迎えて、キッチンのリフォームを考え始める方は多いです。
子育てがひと段落し、これからの暮らしに合わせて「使いやすいキッチン」に変えたい、という声もよく聞きます。
インターネットで調べると、「電動昇降式の吊戸棚がおすすめ」といった情報をよく見かけると思います。
高い場所の収納をボタン一つで下ろすことができる、便利そうな設備です。
ですが、工務店を経営し、整理収納アドバイザーとしてもお客様のキッチンづくりに関わってきた立場から言うと、60代のキッチンで本当に見直すべきなのは、そこではないと感じています。
電動昇降棚、本当に必要でしょうか
電動昇降棚は、確かに便利な設備です。ただ、冷静に考えてみてほしいことがあります。
- 値段が割高になる
- 電動部分は、経年で故障するリスクがある
- そもそも、そこまで高い場所の収納に、日常的に使うものを入れる必要があるのか
便利な設備ではありますが、「その設備が本当に必要な収納量なのか」を先に考えないまま導入してしまうと、結局あまり使わないまま、費用だけがかかった設備になってしまうこともあります。
それよりも先に見直したいのが「吊戸棚」そのもの

これまで多くのキッチンに関わってきた中で感じるのは、吊戸棚は、そもそも付けない方が良いケースが多いということです。
理由はシンプルで、吊戸棚があると部屋が暗くなります。
特に対面キッチンやオープンキッチンでは、圧迫感にもつながります。
「でも、収納が減ると困るのでは」と思われるかもしれません。
ですが、実際にお客様と一緒にキッチン周りの持ち物を見直してみると、吊戸棚に入れるほどのモノが、実はそれほど多くないというケースがよくあります。
以前、あるお客様と一緒に、キッチン周りの持ち物を一つひとつ見直したことがありました。
使っていない調理器具や、いつか使うかもしれないと取ってあった保存容器などを整理していくと、想像していたよりずっと少ない量に収まり、結果として吊戸棚なしのプランで進めることになりました。実際に住み始めてからも、収納に困ったという声はありませんでした。
つまり、「収納が足りないから吊戸棚が必要」ではなく、「モノが多いから吊戸棚が必要に見えているだけ」というケースが、実はとても多いのです。
入れるモノがないのに、吊戸棚だけを設置するのは、本末転倒だと感じています。
吊戸棚をやめる代わりに、こちらを充実させる

吊戸棚をなくす分、おすすめしているのが、キッチン背面のパントリーや収納棚を充実させることです。
背面収納には、次のようなメリットがあります。
- 目線から腰の高さあたりに収納スペースを確保できるため、高い場所に手を伸ばす必要がない
- 電動昇降のような複雑な機構がなく、故障のリスクもない
- 引き出しや棚を使いやすい高さに設計できるため、取り出しやすい
60代の暮らしを考えると、高い場所への上げ下ろしをできるだけ減らし、無理のない動作で使える収納の方が、長い目で見て暮らしやすいキッチンになると感じています。
キッチン本体のグレードも、見直してみましょう
もう一つ、お伝えしておきたいのがキッチン本体の素材・グレードについてです。
工務店やリフォーム会社の中には、「丈夫だから」という理由で、ホーローやステンレスなど、耐久性の高い素材のキッチンを勧めてくるところもあります。
もちろん、これらの素材自体は決して悪いものではありません。
ただ、こうした耐久性の高い素材のキッチンは、費用もそれなりに高額になります。
ここで考えていただきたいのが、「その耐久性、本当に必要でしょうか」という点です。
実は、キッチンメーカーの一番グレードの低い製品でも、きちんと使えば20年ほどは十分に使用できます。
60代でリフォームされる場合、その先の暮らし方(お子様世帯との同居、住み替えの可能性なども含めて)を考えると、必要以上に高いグレードを選ばなくても、十分に暮らしを支えてくれるケースが多いです。
高い費用をかけるべきところと、そうでないところを見極めることも、後悔しないキッチン選びには欠かせません。
照明は、シンプルな機能で十分です

キッチンの照明について、「明るさを調光できるタイプがいい」と紹介されていることがよくあります。
ですが、個人的には、60代のキッチンに調光機能はあまり必要ないと感じています。
調光機能は便利そうに見えて、実際には「毎日同じ明るさで使う」という方がほとんどです。
機能が増えるとその分費用もかかりますし、操作がかえって複雑になることもあります。
60代のキッチンは、まず明るさそのものをしっかり確保したうえで、機能はシンプルなものを選ぶ方が、結果的に使いやすいと感じています。
コンロは、IHをおすすめします

コンロ選びについて、これは経営者としての個人的な体験も踏まえてお伝えしたいことがあります。
私自身、もともとはガスコンロを使っていて、正直なところ火力や使い勝手はガスの方が好みでした。ただ、「火を消し忘れていないか」ということが気になるようになり、IHクッキングヒーターに切り替えました。
実際に使ってみると、
- 掃除が驚くほど楽になった
- 火を使わないので、キッチンが暑くならない
- そして何より、火の消し忘れの心配がなくなった
という点で、変えて良かったと感じています。
60代になると、ちょっとした物忘れが増えてくる年代でもあります。
「火、ちゃんと消したかな」と気になることが、これから先も出てくるかもしれません。
最初は慣れるまで多少使いにくく感じるかもしれませんが、そうした将来のことも見据えると、IHへの切り替えはおすすめできると感じています。
水栓は、レバー式で十分。タッチレスは好みで

水栓については、今はほとんどのキッチンでレバー式が標準になっています。
昔ながらの、ひねって温度調節するタイプの水栓は、今はほぼ見かけません。
ですので、「レバー式にすべきかどうか」で悩む必要はあまりないと思います。
もう一段階上の選択肢として、タッチレス水栓があります。
手をかざすだけで水が出るタイプで、費用は少し上がりますが、お肉やお魚を触っているときなど、手が汚れた状態でも水を出せるのは便利です。
よく料理をされる方には向いていると思います。
ちなみに私自身はタッチレス水栓を使っていませんが、レバー式のままでも特に不便に感じたことはありません。
必須というより、「料理が好きで、手が汚れる作業が多い方向けのオプション」として考えていただくとよいと思います。
床材は、クッションフロアより塩ビタイルがおすすめ

キッチンの床材として、クッションフロアが紹介されていることがよくありますが、個人的にはあまりおすすめしていません。
代わりにおすすめしているのが、塩ビタイル、そして光洋産業株式会社さんのリフェイスタイル(ReFace Tile)です。
特にリフェイスタイルは、まだ取り扱っている業者が少ないのですが、耐久性・お手入れのしやすさともに優れた、なかなかの優れものです。
取り扱いのある業者が見つかれば、選択肢に入れてみる価値は十分あると思います。
60代のキッチン選びで、本当に大切にしたいこと
ここまでお伝えしてきたことをまとめると、60代のキッチンで意識したいのは次の3点です。
- 収納は「増やす」前に、まず持ち物を見直す。吊戸棚が必要かどうかは、モノの量を整理してから判断する
- 高い場所への上げ下ろしより、腰から目線の高さで使える収納を優先する。背面パントリーなどが有効
- 設備のグレードは、これからの暮らし方に見合ったものを選ぶ。必要以上に高いグレードにこだわらなくても、十分な耐久性は確保できる
- 照明は調光機能などにこだわらず、シンプルで十分
- コンロは、火の消し忘れ対策としてIHへの切り替えがおすすめ
- 水栓はレバー式で十分。タッチレスは料理好きな方向けのオプションとして考える
- 床材はクッションフロアより、塩ビタイルやリフェイスタイルがおすすめ
「便利そうな最新設備」よりも、「本当に自分の暮らしに合っているか」を基準に選ぶことが、結果として使いやすく、費用面でも納得のいくキッチンにつながります。
業者によって提案はまったく違います
ここまでお話ししたように、同じ「使いやすいキッチン」を目指していても、業者によって勧めてくる設備やグレードはかなり違います。
高額な設備を積極的に勧める業者もあれば、暮らし方に合わせて必要なものだけを提案してくれる業者もあります。
だからこそ、1社だけの提案を鵜呑みにせず、複数の業者に相談して、提案の内容を比較してみることをおすすめします。

